海図で見ると戸賀港は丸く削られたように中に入組んだ港である。
大昔の噴火口が長い歳月を経て、このような形の港になったと言う。
本当に静かで、水のきれいな港。
私達は、カナダ在住で「ハーモニー」と船名を持つ、秋田県出身の生駒さんより、地元の友人を紹介して頂き、事前に連絡を取り合っていた。
戸賀入港をした翌日、颯爽とポルシェに乗り、そのお1人である戎谷さんが訪ねて下さった。
お洒落で、静かな人柄の戎谷さんは、お酒を飲まない。
「一生分、飲みましたからね。もういらないです。」と言う。
これからの人生のため、体の事を考えてお酒を一切断ったらしい。
その、強い精神力には頭が下がる。わたしにはとても真似できないだろう。
お酒の代わり、漁港で頂いたイナダ(ツバス)の刺身と、イナダを使ったトマトスパゲティは喜んで食べて下さった。
夕方、娘とバトミントンで遊んでいると、カラスがあちらこちらの山からこの港に集まってきた。どのくらいの数だろう、一瞬空が暗くなり、空から海に撒き散らす糞が音を立てておちる。
映画「鳥」の1シーンを思い出し、怖くなり、デッキで遊んでいる犬をあわてて船内に閉じ込めた。カラスは集合を終えた後、一斉に山に向かって飛んでいった。跡には1羽の姿もない。「おーい」と叫ぶと「おーい」ときれいにこだまの返ってくる静かな戸賀港でその日、ゆっくりと眠った。
翌日、私達は秋田マリーナに入港した。
港の入り口は浅いと聞いていたのに、中央に置かれたブイの左右どちらを通ろうかと、思案していると、「コツン・・」と足の裏を通し、軽い衝撃を体で感じた。
しっかり座礁してしまったようだ。
慌てて、「すみません「ハーモニー」といいます、入り口のすぐ手前で底が支えてしまって・・・」と電話をすると、「あーすぐ行きますからねー」という。
マリーナの方も心得たもので、数分で曳航用のロープを携え、救出に来て下さった。冷や汗の入港となったのだが、本間専務さんらスタッフのかたが笑顔で出迎えてくださった。
秋田マリーナでは榎さんご家族初め、たくさんの方々が「ハーモニー」に遊びに来られた。ヨットクラブの方々とのお酒を飲みながらのお喋りは、時間を忘れて楽しんだ。皆さん陽気な愛妻家である。
美帆ちゃんと航平
君と愛ちゃん |
榎さん御夫妻 |
ヨットクラブの
皆さんと |
ヨットクラブの
皆さんと |
特に、ヨット「ハックベリー」の榎さんは、いつも長距離航海者のお世話をとても熱心にして下さっている。美帆ちゃん、航平くんと2人の子供のパパであり子煩悩な方だった。
娘は子供達と意気投合し、お宅にお邪魔し、夕食をご馳走になり、近くのスパにも行ったらしい。きれいにシールで色を付けた寄せ書きを書いてもらったと喜んで帰ってきた。
マリーナの本間専務さんはご夫婦とも朗らかな方だ。
モールス符号をすらすらと解読するため、私達の間では「師匠」として存在していた。無線にも詳しく、「おけらねっと」に参加するためのノウハウや、携帯電話が使えない地域で、映像を無線で送るSSTVのソフトを秋田の無線仲間、大山さんや伊藤さんらとともに準備して下さった。
マリーナを作る立場の仕事をしてこられたのだが、奥様と一緒に、近い将来、ご自分のヨットで世界中のマリーナを今度はゲストとして訪問するのだという。
きっと楽しい旅をされるのだろう。どこかでお会いできればいいな。
出港を決めるのはキャプテンである夫の判断である。
もっと付き合いたいと願う方々と出会いが多ければ多いほど、出港の日は延ばされる。
私達はできれば暖かいところで冬を迎えたい。
日本海は、11月になれば 半分は強い冬型の風が吹くという。
わかっていながらも、なかなか、腰を上げられない。
9月26日、酒田に向けて、名残惜しい気持ちを残したまま、秋田マリーナを出港した。
.