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函館に・・・
八戸出港当日は大潮だった。8月9日。
「お世話になりました。さようなら・・・」の挨拶を交わし、ギアを前進に入れた。
しかし、底が支えて進まない。鈍い衝撃を船底に感じる。
「あーっ!!・・・」二人で顔を見合わせた。
水深6メートルのはずなのに、底に岩でも沈んでいるのだろうか。船は動かない。
「まだ船は青森に居たいんだね」と見送りに来て下さった久保さんの声かけの直後、支えがとれたように船は動き出した。
名残惜しい別れのはずが、冷や汗の別れとなった。

ヤマセの影響なのか、風も強く、天気はずっと悪い。
無理せず、1日40マイルのペースで進むことにした。むつ小川原港から尻屋埼へと向かう途中突然漁船がスピードを上げてまっすぐこちらに向かってきた。
迷彩服を着た若い男性が2人、何か言っている。
「何ですか?」
「もうすぐ、射撃訓練がこのエリアで始まります早く向こうに行ってください。」と言う。
さっきまで後ろにいたイカ釣り船も、いつの間にか前方遠くにいる。
多分、無線で警告していたのだろう。私達は無線を聴いていなかったので、直接知らせに来たのだろう。慌ててスピードを上げて、その場から離れた。
しばらくすると、すぐ近くで機関銃のような銃声が響いていた。

大潮で津軽海峡を渡るには逆潮で流れが速いと判断し、しばらく大畑港で天気の回復待ちをした。
そこで出会った日本一周中のヨット「キザッペ」は函館から大畑港に入港の際、大潮の流れに押され12ノット以上で吹っ飛んできたと言う。
オーナーの奥原さんと、クルーで 自称『コミュニケーションの天才』という渡辺さんには大畑港での間、これまでの航海のお話を聞かせていただき、楽しい時を過ごした。奥原さんは、これまでの寄港地の情報を、痒いところに手が届く心配りでホームページに詳細に紹介している。

やっと晴れた日、キザッペに別れを告げ、反流に乗り無事函館に入港した。
ゆっくりと辺りの様子を伺いながら、事前に連絡を取っていた水野さんより指示された「金森倉庫」の前に舫いをとった。金森倉庫の中に店舗を持つ水野さんご夫妻はヨットで寄港する人が安心して滞在できるように、ボランティアでお世話をして下さっている。
北海道の港にプレジャーボートで寄港するにはややこしい条例ができているらしいけれど、函館に関してはとても安心して便利な場所にゆっくりと滞在できる。
函館は古い建築物と新しい町並みが見事に調和した美しい町だった。  

そこで、懐かしい船に再会した。
「ハーモニー」を手に入れる前、西宮に素敵な船があると聞き、見に行った。
それは「フジ45」のとても美しいケッチであった。
残念ながら、一足違いで北海道の方の手に渡り、当時とても残念で悔しい思いをしたあの船の横に入港直後、横抱きさせていただいたオーナーの今澤さんは室蘭の方で、その後3年間は乗らずにレ ストアしたのだと言う。「ほとんど解体に近いくらいまでやりましたよ。本当に大変でしたが、手のか
けがいのある船ですからね。」と言って笑った。
やはり、運のある船はしかるべき人の手に渡るようである。
磨きこまれた船体を見て、「この人の手に渡って本当によかった。」と、心からそう思えた。   
函館山から見る
金森倉庫前のヨット
金森倉庫前の
愛ちゃんとハーモニー
ハーモニーとフジ45 今澤さんと仲間達
函館では、もうひとつの懐かしい船「K−セラセラ」とも再会した。
オーナーの石坂さんご夫妻は現在、姫路を出港し日本一周中である。
懐かしい船名を見つけ私達は、うれしくてうれしくて、デッキで小躍りした。
石坂さんの奥さんも手を振りながらデッキで踊っていた。知らぬ土地で、知った船に出会うと本当にうれしい。その後数日、お互いの航海談義に花が咲いた。
北海道は今年、天候不順で霧と雨で大変な航海であったと言う。
「色々な事あったよ・・・。」と奥様のミルキーさんはしみじみとおっしゃった。
26フィートの船で夫婦2人、日本中を航海するのはかなりきつい旅だろうと思う。
お互いの安全航海を祈りながら3日後、なごりおしい別れとなった。
K-セラセラ 石坂さんと高田さん 体験クルージング 体験クルージング
函館を出港する数日前、水野さんのお手伝いをさせて頂いた。
これは、不登校や心に何らか問題のある子供をヨットに乗せるという体験クルージングだった。水野さんは単に乗せるだけではなく、子供に舵を持たせセイルを操作し操船させる。
初めは蛇行してうまく進まないが、なれてくると体で自然に覚えてくる。
エンジンを使わず、風を頼りに自分の力で船を走らせるという経験をすることで、心の達成感と自信を得るのだろうか。この体験クルージングは治療にあたる専門家からも評判が良いらしい。
水野さんの静かで冷静な人柄とは別に、結果を恐れない独自の働きかけに触れて、多くを学ばせていただいた。

すでに1ヶ月の滞在となり、北風の吹く前に南に下るにはそろそろお尻に火がつき始めていた。
函館はとても寒くなってきた。
再び津軽海峡を渡り、初めての日本海に舵を向けた。
9/3メンテのお手伝い 9/3メンテのお手伝い 流山温泉
愛ちゃんとお母さん
8/29駒ケ岳と愛ちゃん
8/29高田さんと愛ちゃん