ハウステンボスで過ごした日々
ハウステンボスマリーナにはたくさんのヨットマンたちが集う。
週末には、キャビンに明かりが灯り、ハッチからは白い湯気とともに、美味しそうなお出しの香りがあたりに漂う。
お湯割り焼酎を片手に話が弾んでいるのだろう。
恵まれた気候と。九州人の温かさに触れる長崎での日々。

しかし、ある日、事件があった。ボヤ騒ぎを起こしたのだ。
『ハーモニー』では灯油を気化して使用する加圧式のコンロを使っている。
これは、気化を十分にさせないと灯油に引火し大きな炎が上がるため、コツをつかむまで事故が起こる危険は多々ある。
私も初めは上手くいかず、緊張しながら使っていたのだが、人には勧めないけれど、今ではこのコンロにとても満足している。しかし、晴天のある日、パンを焼こうとオーブンに火を付けた。

このオーブンは以前から少し灯油漏れの兆候があったが、いつもより短時間で香ばしく焼きたいと、加圧をいつもの8から10にし、火力を強くしていた。
オーブン内の温度は上がり、200度に達した時、パイプの隙間から漏れ出した灯油に火が引火し、燃え出してしまった。
運悪く、夫はメンテの途中でマストに上っており、しかもロープが引っかかっているらしく、なかなか降りてこない。黒い煙がハッチから上がり、仕方なく常備していた消火器で消した。
消化剤の勢いで火は一瞬にして消えたが、一旦噴射した消火器は残量がなくなるまで止まらない。なんとか外に出そうと噴射口を指で押さえて走り出したのがまずかったのだろう。
ピンクの微粒子はあたり一面に飛び散り、私は頭から足まで粉まみれだった。
騒ぎを聞きつけて船から飛び出してきた鳥尾さん達は、「大事に至らなくてよかったよ・・」と言いながら、髪まで真っ白の私を見て笑いをこらえているようだった。

その夜、「今日はこれじゃ夕食できんじゃろ」と『鳳』でご馳走になったが、火事場の興奮は冷めず、ヤケクソ気味になっていた為、酒量が増えてしまった。
結局、この後片付けは、今も終わっていない。消化剤とは厄介なもので、微粒子なので掃除機は詰まるし、水で拭いても乾けばパラパラとどこからともなく粉が出てくるのだ。
気の遠くなる作業だが、やらねばなるまい・・・

船の火災はよく聞くが、まさか自分に起こるとは思っていなかった。
夫は一言、「火から目を離すな・・」と言った。素直に反省しよう。
当たり前のことだけれど、これは今後の教訓になった。
マリーナにも雪が積もりました。 ハーモニー 長崎の海
2002年12月