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「あらら・・あなた達出港できないわよ。・・・」

向かいのバースに停泊している南アフリカ艇『デジャブ』のグレンがマストを指差しながら笑っている。
双眼鏡で覗いてみると、マストのてっぺんで、文鳥のような形の灰色の鳥がせっせと巣篭もりの準備をしている。
先日、マストに登って作業をしていると、縄張り荒らしと勘違いした鳥が夫の頭を突っつきまわし、下で見ていた私は大笑いしていたのだが、やはり笑い事ではないようだ。

1年近く停泊していると、ついに鳥にまで目をつけられてしまった。

コタキナバルは私たちにとって『偶然に停泊した町』だった。
行きやすいコースを選んだ結果である。けれどこの町で、娘を学校に通わせ、色々な人と出会い、そして、一生忘れられないモコの眠る町になった。
最近海外のロングステイ希望者に注目されているという話だけれど、ここは比較的治安も良く、衣食住が充実しており、住み心地はとても良い。全くいいところに流れ着いたものだと思う

いよいよ南風の季節となり、早く腰を上げないと、向かい風で南に行けなくなりそうなので、今後のコースをとりあえず決めた。ここから30マイル先のティガアイランド、そしてラブアン島(アルコールが免税)ブルネイ ミリ(サラワク州で、4月18日から24日までヨットレースがある)クチン そしてマラッカ海峡に入り、シンガポールから、西マレーシアに入る予定である。

でもわからない。多分、この行程も途中で変更したくなるに違いない。
その時は、気の向くまま、行き先を決めることにしている。

今年中学2年になる娘は、コタキナバルを存分に楽しんだのではないかと思う。
しかし、学校には続けて通うことを望まず、そろそろ数ヶ月の休憩が欲しいという。
のんびりと自分のペースでじっくり課題に取り組む時間が必要らしい。
学校のカリキュラムに乗っかり、一生懸命走り続けているのも、1年を過ぎるとつかれてくるというが、おそらく、ヨットで3ヶ月も旅をしていると再び学校が恋しくなるに違いない。
その時には、再び静かな停泊先を見つけて、学校に通わせようと思っている。

ヨットの旅と、15歳未満の子供の教育の二つを両立させるのは実際やってみるとそれほど大変なことではない。数学の参考書を親子で睨みながら、意見を出し合い問題を解く作業は、いいものだと思う。
ただ、これ以上難しくなると、私には解けない・・・。

私たちのナビゲーションは、シーマップをGPS と連動させているが、着々とアップデートできており、より便利になっている。最近「シークリアー」(フリーソフト)で紙のチャートを電子チャートとして読み込みGPSでポジションをリアルタイムに出せるものも使っている。
これらは世界中の主な港をカバーしているので、世界一周する船は高い紙チャートをたくさん買い、置き場所に困る必要もなければ、ナビゲーションに多額の費用を費やさなくてもすむようになった。
他のヨットも頑固に『コンピューターは嫌い』と言い切る人以外は大体こんな感じある。

また、無線の周波数を使用し、海上からメールを送れるシステム(有料契約)を利用すると、欲しい地域のお天気情報をプロバイダーにリクエストすると、その地域の政府がインターネット上に公開している情報を英語で、しかも海上で受信できるようになった。
これまで、行き先の地域の天気を把握するのに多大な努力と時間を費やしてきた人にとっては、ウソのようなグレードアップである。
最終判断は自分自身だけれど、得られる情報は多ければ多いほどいい。

しかし、便利と引き換えにパソコンのトラブルもついてまわるようになっているようだ。
長距離航海者には百戦錬磨の海の男も女もゴロゴロいる。
そんな彼らでも、パソコンの取り扱いには振り回されることもしばしばである。
『フリーズして動かない。』『ウインドウズが壊れた。』『インストールがうまくいかない。』『ウイルスが入った。』など色々な問題を抱えている。
私達は英語が下手なので、情報交換なども大変時間をかけて丁寧にみなさんおしえて下さるが、そのお返しとして、パソコントラブルを抱える船にはお手伝いをしている。
プロではないので完璧に出来ないこともあるが、これでも結構重宝されているようである。
一つでもとりえがあると、多少言葉のハンディがあっても、それをきっかけに信頼関係や友情が生まれるのがとてもうれしい。

4月にはサラワク州のミリという所でヨットレースがある。
先日2人の世話役の方が来られ、『ハーモニー』も招待してもらった。
南下するコースの途中にあるので、タイミングが合えばと思ってはいるけれど、重すぎて全く走らないとは思うけれど・・・

そういうことで、今週末(3月13日)出港します。たぶん・・・・・


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2005