懐かしの<BARBARA>クルージング体験記
                                       IAAN2  中尾 市二   
この写真のヨットは和歌山市在住の山形秀さんが設計、片男波にあった川本造船所で自ら建造した26フィート、ダブルブランキングの木製ケッチです。
撮影されたのは昭和28年(1953年)7月31日西宮沖で私と山形さん花岡春雄さん(和大1期)が乗っています。私のはじめてのクルージング体験です。 
BARBARAと名付けられたこの舟はライフラインが無く、雨が降ればデッキから漏ってくる、海水が一日バケツ3杯ぐらい入る、焼玉エンジンは滅多に掛からない、でもセーリングは快適なヨットでした。

前日、和歌浦を出たのですが7月18日にあった和歌山大洪水のため加太瀬戸では流された材木、浮いている家のため乗りきることができず、潮待ちをしたため西宮へ行くのに佐野港で一泊しました。

この日も間違って和田岬に着いたので、西宮へ行くのにエンジンを掛けたが案の定掛かりません。エンジンはフライホールを手で回して掛ける方式です。バッテリー、スターターは勿論ありません。後は櫓で漕いで行くことでした。

勿論漕ぎ手は一番若い私です。ジンギーでは難しいがキールのあるクルーザーではそんなに手強い物ではありません。
昨年、不慮の事故で亡くなられた野本謙作さんも櫓を積まれていました。野本さんと山形さんは阪大造船科の同窓生です。野本さんの最初の‘春一番’は山形さんの紹介で川本造船で造りました。良く気の合った二人でした。天国で‘野本なんで来たのかよ’と先輩に叱られてましょう。

翌年だったと思います。 朝比奈さん、山形さんの弟さん等とこの舟で海図も持たず徳島目指しました。朝から大雨で視界が悪く、とにかく西へと箱入りのコンパス頼りに出ましたが途中自分の位場所が判らなくなり鳴門に吸いこまれないかと不安になり、考えこんだ時エンジンの音が聞こえたので、とにかく其処へ行こうと、行った所が沼島でした。

なんとか助かりました。船内は水浸しですから、夜は学校にお願いして裁縫室に泊めてもらいました。寒いので座布団を借りて腹に掛けるのですが大きな誰かの腹では乗っててくれません。
寒かったし、怖かった昼間のことが頭に残り眠れませんでした。
でも翌日は晴天で無事徳島へ入りました。

その年の秋、滋賀大ヨット部の学生を乗せて白浜へ行きました。一気に行く積りが南風に吹かれて阿尾港に逃げ込み翌早朝出発。今度は北風で日の岬は大きなうねりが有りました。
舟にはトイレが有りませんので山形さんが何時もの様にトランサムにぶら下がり朝の行を始めましたが、後ろからの大きな波に呑み込まれ自分の出した物と一緒に舟から放されました。
咄嗟にライフリングを投げて山形さんが掴むを見て、私達も直ぐ反転して探しましたが見つかりません。一時間ぐらい掛かりようやく舟に引き揚げました。

上がって来た山形さんの怒る事 “なんでもっと早く助けないのか、お前ら俺を殺す気か”泳いでる山形さんからは舟はよく見えるのです。しかし私達からは中々見つかりません。
もしリングが直ぐ出せなかったら、そして山形さんがリングを掴む事が出来なかったら、あの時に山形さんを失ってた事でしょう。このことは私の最大の警鐘として残りました。
自分を守ってくれる物、人を助けて上げられる物、舟の上では何時も考えて置かなければ為りません。
この舟でレースにも出場しました。
当事、紀伊水道レースと云うのがありまして、土曜日和歌浦を夜9時スタート、沼島を周り由良港沖蟻島を回って和歌浦にゴールすると言う関西で唯一のレースでした。
参加艇は和歌浦からBARBARAと津田郁太郎さんの暖流号、そして西宮から5−6艇です。その中には外人の舟がいつも2艇ほど有りました。
翌朝早く沼島を後にして、昼過ぎ蟻島を回って、夕刻和歌浦に帰ると言うのが通常ですが、或る年風が無く、丸一日沼島周囲でうろうろした事がありました。
これでは月曜日会社へ出勤することが出来ないと考え物珍しげに近寄ってくる漁船の子供達に電報を頼みました。
多分叔父か叔母に死んでもらい葬式に出席と言い訳したことでしょう。
前日本ヨット協会会長秋田博正さんのツインスター号が何時もトップです。                            写真クリックして下さい。
また日航事故で亡くなられた江川三郎さん、森本倉庫の森本さんの舟等が常連でした。
レースは大変のんびりした物です。開始式も無く、レース後のパーテーも無く、ゴールすれば直ぐ
西宮へ帰って行きました。
土曜日に集まってきた時、舟を寄せ合っての会話が楽しみだけの静かなレースでした。
昨年暮れIAANを朝比奈さんと共に降りました。

早くからヨットを楽しみましたがこんな古い話だけが取り柄の二人です。

今後は、
新たに IAANUの特別準会員と正会員となります。 
有難う御座いました。

左から
朝比奈さん 中尾さん  有田さん
(現IAAN特別会員)